本日は金融機関担当者向けに不動産M&Aの基本的なポイントをお話したいと思います。
不動産M&Aとは文字通り不動産取引を目的としたM&Aのことです。
売買の対象が不動産ではなく不動産を保有する会社の株式となるため、通常の不動産取引と取り扱いが異なります。基本的には売却時のメリットが大きい取引となることが多いので、不動産売買や事業承継関連の対策では積極的に活用したいストラクチャーとなります。
※本ブログは金融機関担当者への情報提供を目的に作成しています。各種情報についてはリサーチのうえ極力正しい情報を記載しているつもりですが、顧客への提案や利用にあたっては税理士や会計士、各種専門家にご相談頂くようお願いいたします。
不動産M&Aのメリット
まずはメリットから見ていきます。ここでは売り手と買い手双方の視点から確認します。
買い手にとってのメリット
手残り金額が大きくなる
オーナーの手残り額が大きくなる可能性があることが不動産M&Aの最大のメリットです。
①法人保有の不動産を売却するとき
(法人保有の不動産を売却した時)
通常、法人で保有する不動産を売却する場合、売却益に対して法人税がかかります。
また、譲渡対価の入金先は不動産を保有する法人になります。
入金先が法人となりますので個人に資金還流するためには「役員報酬」や「配当」を実施する必要がありますので、個人にお金を持ってこようとすると再度課税が発生します。
(不動産M&Aを実施したとき)
一方、不動産M&Aを実施した場合は個人が保有する株式の譲渡所得に対して課税されます。
また、譲渡対価の入金先は売却する法人の株主となります。
ここでは個人株主が売却した前提で見ていきます。
ケースによって異なりますが、個人に対する課税は約20%となるため、同じ不動産の売却でも売り方によって手残り額が大きくなる可能性があります。
法人で不動産を売却したケースと比べ、個人に資金還流をすることができるので「役員報酬」や「配当」等を行わなくて済むので一度の課税で完結します。
②廃業を検討しているとき
廃業を検討している際は、不動産を売却してから清算する形になりますが、その際は上記の法人税に加え廃業時に税金が発生します。廃業に関する課税は複雑なのでここでは触れませんが、
不動産売却時の法人税+廃業に関する課税やコスト
と二重でコストがかかってしまいますので、不動産M&Aの方が有利になるケースが多いです。
買い手にとってのメリット
不動産の流通コストを抑えられる
不動産の売却の際には流通コストがかかります。具体的には下記のようなものです。
②登録免許税=取得した不動産の課税標準額×税率(土地2%、建物2%)
※それぞれ軽減措置あり
不動産M&Aの場合は、不動産取引ではないのでこれらの不動産流通コストを節約できます。
買い手にとってもこれはかなり有利ですよね。
不動産取引より安く不動産を取得できる可能性がある
売り手のメリットのところで触れましたが、不動産M&Aの場合は売り手の手残り額が大きくなる可能性が高いです。これは交渉次第となりますが、売り手の希望手残り金額を満たした場合、不動産取引で不動産を取得するより安い金額で不動産を取得できる可能性もでてきます。
不動産M&Aのデメリット
メリットの多い不動産M&Aですがデメリットもあります。こちらも買い手と売り手の双方の視点から確認していきます。
売り手にとってのデメリット
買い手先が限定される
デメリットとしてあげられるのは買い手先が限定されることでしょうか。不動産M&Aについては近年知名度が上がってきておりプレイヤーが増えてきていますが、まだまだ不動産取引と比べると普及していないかと思います。
一般的なストラクチャーになりつつあると思いますが、買い手候補先の選定にあたっては不動産を株式として取得できる買い手に限定されるので、候補先の選定にあたっては通常の不動産取引よりハードルが高いと言えるでしょう。
手続きに時間がかかる
上記の買い手先の選定に加え、売却するのは法人となりますので通常の不動産売却と比べ買収監査等の手間もかかります。事業も譲渡する場合は事業の引継ぎを含めて検討する必要があります。
一方、組織再編(会社分割等)を行うことで、不動産事業と事業を切り離して譲渡を検討することも可能です。こちらのストラクチャーについては時間があるとき書きたいと思います。
買い手にとってのデメリット
売り手企業の企業リスクを引き継ぐ
買い手は不動産を保有する法人を買うことになるため、売り手企業が抱えるリスク(簿外債務等)も引き受けることになります。
取得してからトラブルが発生しないよう買収監査をきちんと実施し売り手企業の情報を精査したうえで取引を行うようにしましょう。
不動産を現物で売却する場合には注意が必要
また不動産を現物で売却する場合にも留意が必要です。法人を取得した際に不動産の取得簿価を引き継ぐため、将来、現物で不動産を売却した場合に利益が出た場合は法人税がかかります。
古くから保有している不動産については簿価が非常に低くなっているケースもあるので、将来の税コストを踏まえて買い取り価額の決定をする必要があります。
まとめ
いかがだったでしょうか。本日は不動産M&Aについて不動産取引との違いやメリット・デメリットを解説してきました。
不動産M&Aは通常の不動産取引と取り扱いが異なるため、課税の部分で大きな差が出ることがあります。オーナーの手残り額最大化という意味では非常に有用なストラクチャーですので、ニーズがありそうな顧客がいればぜひ提案してみてください。
提案のポイントにあたっては別記事で解説予定ですのでぜほそちらも読んでいただけると嬉しいです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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